
2016年12月20日
女性の体の一生は、月経や生殖機能の状態により、3つのライフステージに分けられます。月経がなく生殖機能が備わっていない幼・小児期、月経が始まり妊娠が可能な性成熟期、閉経後の老年期です(図1)。このような変化は、主に卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌量の変化によって引き起こされます。
更年期とは、閉経をはさんだ前後約10年間を指します。個人差はありますが、50歳前後で閉経を迎える人が多く、45~55歳くらいが更年期にあたります。多くの場合、ある月を最後に月経(生理)がぴったり来なくなるわけではなく、周期が短くなったり長くなったりという月経不順を経てから停止します。無月経の状態が12ヵ月以上続くと、閉経と判断する目安です。
<女性のライフステージと卵胞ホルモン(エストロゲン)の変化>
卵巣ホルモンとは、卵巣から分泌されるホルモンのことで、女性ホルモンとも呼ばれます。卵巣ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類があり、増えたり減ったりしながら、排卵・月経・妊娠などの生殖機能を維持しています。
卵巣ホルモンは、脳の視床下部からの指令に基づき、下垂体と卵巣が連携することで分泌されます。卵巣ホルモンの血中濃度は視床下部に逐次フィードバックされ、次の指令が視床下部から発信されます。女性の健やかな生殖機能の維持には、視床下部、下垂体、卵巣の規則正しい連携が不可欠です。
2種類の卵巣ホルモンのうち、月経から排卵までの間に多く分泌されるのは、卵胞ホルモン(エストロゲン)です。主な役割は、「妊娠の準備」。受精卵が着床しやすいように子宮内膜を厚くします。卵胞が成育しているこの時期は、仕事や勉強がはかどり、肌のコンディションがよいなど、心身の調子が比較的良好です。卵胞ホルモンはその他にも、丸みを帯びた体型をつくる、骨密度を増加させる、内臓脂肪をつきにくくする、悪玉コレステロールを減らすといった働きも持っています。
排卵により卵子を出した後の卵胞は黄体という組織に変わり、もう一つの卵巣ホルモンである黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。黄体ホルモンの働きは主に、「妊娠の成立のサポートと妊娠の継続」です。
排卵後に心身の不調を感じる人が増えるのは、黄体ホルモンの影響が大きいと考えられます。例えば、黄体ホルモンには受精卵を着床させるために体を休ませる沈静作用があるため、眠気やだるさなどを引き起こす場合があります。また、水分を蓄える作用もあるので、むくみを招いたり、腸の働きを抑える作用で便が硬くなり便秘になったりすることもあります。皮脂の分泌を促進することから、月経の前に吹き出物ができる人もいます。
月経と排卵が規則的に繰り返されていた性成熟期には、2種類の卵巣ホルモンがバランスを保ちながら活発に分泌されています。ところが、加齢とともに卵巣の機能が衰えていくと、脳の視床下部から命令されても、卵胞の生育が起こらず、卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されなくなります。
こうして起こるのが無排卵性月経や月経不順であり、更年期の入り口の目印ともいえます。また、健康維持のための大切な働きを担っていた卵胞ホルモンが減少することによって、個人差はありますが、更年期特有の不快な症状が現れます。
卵胞ホルモンの分泌がさらに減少すると、視床下部が刺激されます。視床下部は自律神経をコントロールしている中枢でもあるので、自律神経などが影響を受けるといわれています。
覚えておきたいのは、更年期の全ての女性が更年期障害になるわけではないということです。特に症状が重く、本人にとって苦痛で日常生活に支障をきたす場合が、更年期障害です。純粋な体調の変化に加え、人間関係やストレスなどの心理的な要因が絡み合って起こることが多いと考えられています。
ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、発汗)、肩こり、腰痛、頭痛、倦怠感、イライラ、うつ状態…。一般的にはこのような不調が更年期の症状として認識されています。更年期障害は自覚症状が中心で、悩みやストレスも影響します。生活の改善を心がけて、それでも症状が続く場合には、婦人科を受診しましょう。
更年期の後期や閉経後は、卵胞ホルモンの恩恵を受けられなくなるため、皮膚や粘膜の乾燥、頻尿、尿もれなどが起こることもあります。
さらに注意が必要なのは、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、高脂血症、動脈硬化症などです。これらの症状は卵胞ホルモンの減少だけが原因ではなく、加齢や生活習慣も加わって進行するので、男性にも起こりますが、女性の場合は閉経後に急速に進行する場合があります。深刻化すると寝たきりの老後の一因となり得るので、早い段階からの対策が大切です。「健康だから、まだまだ大丈夫」と安心せず、毎日の食生活に留意し、運動する習慣を身につけることで予防に努めましょう。